「TrackTownシステム」とは一言でいうと”トラック競技のエントリーサイト”です。すでに日本には数多くのエントリーサイトがあるなか、なぜわざわざ陸上コーチである僕がこういうことを始めることにしたのか?それはアメリカで現役生活を送っていた原体験からきています。現役のころアメリカやヨーロッパのレースに出場するにあたって、当時、所属していた会社から「エージェントを通さないと国際試合には出られない」と言われていたんです。つまり、海外で出場するのはハードルがすごく高いことと思っていたんです。ところがアメリカで一緒にトレーニングしている選手たちに「どうやってエントリーしてるの?」聞いてみると「このサイトを開くだろ?そしてカリフォルニアを選んで日付入れると、ほら、たくさんレースが出てきただろ。それをポチポチすればいいんだよ」というんです。そのとき見せられたのが『 Direct Athletics 』というエントリーサイト。日本のような陸連登録制度もなく、所属もその都度、自分で打ち込むんです。なんなら、所属先なんていうのも適当でもかまわない。なんて気軽なんだ!とうれしくなって、それから気兼ねすることなく、世界中いろんなレースに自分でエントリーするようになりました。
ヨーロッパではDirect Athleticsのようなサイトがなかったので、大会ディレクターに直談判してました。「この大会でオリンピック標準を切りたいんだ。これで切れなかったらクビを切られるから人生をかけてるんだ」とメールすると「しょうがないなあ」とエントリーしてくれる(笑)。ところが、現地に行くと設定タイムが遅いBレースに入っていたりするから、前日に「俺をAレースにいれてくれ。絶対、タイム出すから」と交渉していれてもらう。でも、タイムは出せないんですけどね(笑)タイムを出せなくてもディレクターからは何も言われないですよ。だって僕のことなんて気にしてないから。レーンが限られる短距離と違って、中長距離はレーンひとつ増えても弾かれない。800mでも10人が11人になってもレース運営には支障はないですから。こういうことは日本の陸連公認レースではなかなかできません。一定のルールで作られた競技場でライセンスをもった審判が競技会を運営する。特に陸上競技では記録の公平さが求められます。もちろん競技を突き詰めていく上において、公平性はとても大事だけれど、もっと多くの人々が楽しめるスポーツという観点でいうと、公平性だけでなく、もっと気軽さや楽しみという要素が大事だと感じました。日本のような陸連公認制度は海外にはないですしね。だからアメリカで使っていた『Direct Athletics』のような仕組みが日本でもあったらいいな。ないのなら、自分で作ってしまおう。というのが大元の考えです。
選手にとっても大会が探しやすいし、エントリーもしやすいというのがメリットだと思いました。自分で名前とタイムをいれて、種目選んで、クレジットカードで決済してしまえばおしまいですから。一方で日本では陸上競技のエントリー管理は地域の陸協や大学などそれぞれの主催者が行います。エントリーも主催者宛にメールでエクセルシートを送ったり、決済も郵便振込だったりして、エントリーするほうも、エントリーを受け付けるほうも手間がかかります。Direct Athleticsでいろんなレースを眺めていると、アメリカ陸連がやっているハイパフォーマンスミートといわれる中長距離の記録会がありました。標準記録をきってないと出れないレースですが、優勝タイムが800mだと1分43とか1500mは3分33秒とかそれくらいのレベルのレース。日本記録よりも速い。それこそファラーや大迫も走っているような大会です。それもDirect Athleticsからポチッとエントリーできるんです。一方で「この3つの中学校しかエントリーができません」という地域の運動会までが区別なく同じように並んでエントリーができる。すべてのレースをフラットに扱ってるのをみて、これは素敵だと思ったんです。誰でも簡単にエントリーができる土壌が育っていたがゆえに、多くの草トラック・レースが産まれたんですね。一ユーザーとして、こういうサイトが日本にもあれば、もっと多様なレースが増えていくのにそう考えるようになりました。
ぼくが陸上を始めたのは2003年です。そのころから陸上競技大会でのアナウンスやファンファーレはずっと変わってません。20年近く変わっていないってちょっと変ですよね。残すことの良さもあるけど、一方で異なった価値観を受け入れてこなかったんじゃないかとも思うんです。いままでのものを否定するのではなく、新しいものを受け入れていかないと、どんな業界でも衰退していくじゃないですか。僕は陸上がそうなっていくのは見たくはないのです。陸上競技の面白いところは選手がお金を払ってまで来てくれる上に、お客さんでもある選手そのものがコンテンツでもあるんです。いい大会運営ができることで、選手のパファーマンスにつながってもらえばベストですし、選手そのものがコンテンツだから自ら、「良い大会だった、また出たい」と発信もしてくれます。マラソンランナーの川内優輝さんなんて、まさに世界中いろんな大会に出ては詳細にここが良かったと発信してくれるじゃないですか。「いい大会=記録が出る」に競技会の価値が置きすぎているように感じます。そうすると競技会にはエントリーフィーの1000円とか1500円の価値にしかないようなものになってしまいます。記録以外にどういう価値が得られるのか?そこから変えていきたいのです。現在、陸連登録をしている中学生が20万人。高校生は10万人います。そのひとたちがずっと陸上を続けてくれれば、陸上界は変わっていったと思うし、競技は継続しなくても、少なくとも陸上ファンにはなってくれたはずです。と、好き勝手に言ってきましたが、バーチャレ(バーチャルディスタンスチャレンジ)やミドルディスタンスチャレンジなど、自分でもレースを作るようになって気づいたことがあります。実際にレースをゼロから作ってみると、想像していた以上に膨大かつ煩雑な作業が忙殺されるのです。作業だけで手一杯で新たな価値を作る余裕なんてどこにもない。新たなレースの作り手が産まれない理由がわかりました。情熱を軽くうわまわる労力が必要だったのです。そこで、TrackTownではエントリーだけでなく、レースを作って運営するための仕組みまでをカバーすることにしました。つまり、レースに出場する選手を増やすだけでなく、レースの作り手までを増やしたい。「だれでもレースは作れる」というケースを、このTrackTownから産み出していくことで、レースを作る人も走る人も集まれるプラットフォームに育てていく。それがTrackTownのサービスです。
TrackTownというのは僕らの社名やサービスの名前ですが、一方で僕らが実現したい社会でもあります。先日もオリンピックテストイベントがありました。新国立競技場の横に立派なサブトラックが作られましたが、あれもオリンピック終了後には壊されてしまうわけです。僕がもし東京オリンピックを統括する役目にあるとしたら、あのトラックは残すべきで、それも競技場のサブトラックとして閉じてしまうのではなくて公園として残すべきだと思ったのです。本当のレガシーとは、スポーツ界のためだけでなく、市民とか社会に残すことだと思うのです。陸上競技場でピクニックや犬の散歩ができるというものがあっていいし。それがオリンピックをやったサブトラックだとしたら、もう少し、オリンピック、スポーツ競技を身近に感じることができる象徴になったはずです。毎年、国体がどこかの都道府県で開催されます。国体仕様の立派な陸上競技場が日本中にあります。そしてその競技場にはサブトラックが併設されています。それらのサブトラックが地域で陸上競技以外の地域の生活コミュニティー形成に寄与できてるか?といえば、そうはなってないでしょう。陸上競技だけでなく、ランニングや散歩やピクニックといった楽しみの先にこそコミュニティーがうまれます。その中心にトラックがあれば最高じゃないですか。そういう社会とか地域をたくさん作っていきたいという思いがTrackTownという名前に込められています。
TrackTownを通じて僕がこれまでやってきた陸上競技とは違う楽しみ方を作りたいと思ってます。まずは僕の専門種目であった中距離からはじめていくつもりです。中距離のいいところは「うるさいことをいうオトナがいない」っこと。これは声を大にしていいたい。中距離だからできることがあるんです。その皮切りとなるのがミドルディスタンスサーキットなのです。TrackTownで一緒に楽しみましょう。
TrackTown代表
横田真人